1. 概要

イーライリリー・アンド・カンパニー（以下、イーライリリー）は、グローバル製薬市場において主要なプレイヤーの一つです。同社は特に糖尿病、がん、免疫系疾患、神経系疾患の治療薬分野で強みを持っています。製薬市場全体の成長と、イーライリリーの戦略的な製品ポートフォリオ管理により、同社の市場ポジションは堅調に推移しています。今後は、新興市場での展開強化やバイオ医薬品の開発に注力することで、さらなる成長が期待されます。

2. 市場規模

• 現在の市場規模： イーライリリーが主に事業を展開するグローバル製薬市場の規模は、2022年時点で約1.48兆ドルと推定されています。

• 過去5年間の推移： 2018年から2022年にかけて、グローバル製薬市場は年平均成長率（CAGR）約5.8%で成長してきました。この成長は、高齢化社会の進展、新興国市場の拡大、慢性疾患の増加などが主な要因となっています。特に2020年以降は、COVID-19パンデミックの影響により、医薬品やワクチンの需要が急増し、市場成長を後押ししました。

3. 市場成長率

• 現在の成長率： 2022年のグローバル製薬市場の成長率は約6.2%と推定されています。

• 過去5年間の推移： 過去5年間の市場成長率は以下のように推移してきました。

  • 2018年：5.1%
  • 2019年：5.4%
  • 2020年：6.8%（COVID-19の影響により急増）
  • 2021年：7.1%
  • 2022年：6.2%

  この期間中、新薬の承認数の増加、バイオ医薬品の台頭、そして特にCOVID-19関連の医薬品・ワクチン需要が市場成長を牽引しました。イーライリリーもこの市場トレンドの恩恵を受け、特に糖尿病治療薬と免疫系疾患治療薬の分野で着実な成長を遂げています。

4. 主要競合他社

1. ファイザー（Pfizer）

   • 市場シェア：約5.6%
   • 強み：幅広い製品ポートフォリオ、強力な研究開発能力
   • 弱み：特許切れによる収益減少リスク

2. ロシュ（Roche）

   • 市場シェア：約5.1%
   • 強み：がん治療薬での強いプレゼンス、診断薬事業との相乗効果
   • 弱み：一部の主力製品への依存度が高い

3. ノバルティス（Novartis）

   • 市場シェア：約4.9%
   • 強み：多様な治療領域での展開、ジェネリック医薬品事業（サンド）の保有
   • 弱み：新興市場での成長に課題

4. ジョンソン・エンド・ジョンソン（Johnson & Johnson）

   • 市場シェア：約4.7%
   • 強み：医療機器、消費財事業との多角化、安定した財務基盤
   • 弱み：一部製品の訴訟リスク

5. メルク（Merck & Co.）

   • 市場シェア：約4.3%
   • 強み：がん免疫療法での先駆的地位、ワクチン事業の強さ
   • 弱み：一部主力製品の特許切れリスク

5. 競合他社とイーライリリーとの比較

イーライリリーの市場シェアは約2.5%で、上位10社には入るものの、上記の大手製薬企業と比較するとやや小さいです。しかし、以下の点で競争力を維持しています：

1. 糖尿病治療薬での強い地位： イーライリリーは、インスリン製剤やGLP-1受容体作動薬など、糖尿病治療薬市場で強いプレゼンスを持っています。この分野では、ノボノルディスクと並んでトップクラスの地位を維持しています。

2. がん治療薬の成長： 近年、イーライリリーはがん治療薬の開発に注力し、特に乳がんや肺がんの治療薬で成果を上げています。この分野での成長が全体の業績を押し上げています。

3. 研究開発への高い投資： イーライリリーは売上高の約25%を研究開発に投資しており、この比率は業界平均を上回っています。これにより、長期的な競争力の維持を図っています。

4. バイオ医薬品への注力： モノクローナル抗体やペプチド医薬品など、バイオテクノロジーを活用した新薬開発に積極的に取り組んでおり、この分野での技術的優位性を築いています。

6. 今後の市場動向予測

• 市場規模の予測： グローバル製薬市場は2028年までに約2.1兆ドルに達すると予測されています。

• 成長率の予測： 2023年から2028年にかけて、年平均成長率（CAGR）は約6.5%と予想されています。

• 新たな市場参入者や技術革新の可能性：

  1. mRNA技術を活用した新薬開発が加速する可能性があります。
  2. AI・機械学習を活用した創薬プロセスの効率化が進むと予想されます。
  3. 遺伝子治療や細胞治療など、先端的な治療法の商業化が進む見込みです。

• 規制環境の変化の可能性：

  1. 薬価抑制策の強化：特に米国市場での薬価引き下げ圧力が強まる可能性があります。
  2. 承認プロセスの迅速化：希少疾病や重篤な疾患に対する新薬の承認プロセスが迅速化される傾向にあります。
  3. データ保護規制の強化：患者データの利用に関する規制が厳格化される可能性があります。

7. 日本市場との関連性

• 日本市場での事業展開： イーライリリーは日本に子会社（日本イーライリリー株式会社）を持ち、日本市場で積極的に事業を展開しています。日本は米国に次ぐ重要市場の一つとして位置づけられています。

• 為替リスクの考察： 円/ドルの為替変動は、イーライリリーの日本での収益に影響を与える可能性があります。円安傾向が続く場合、ドルベースでの収益にはプラスの影響があると考えられます。

• 日本の類似企業との比較： 武田薬品工業や大塚製薬などの日本の大手製薬企業と比較すると、イーライリリーは特に糖尿病治療薬とがん治療薬の分野で強みを持っています。一方、日本企業は国内市場での強固な基盤を活かした展開を行っており、特に循環器系や中枢神経系の治療薬で競争力を持っています。