1. 収益性の推移と要因分析
ナイキ(Nike, Inc.)の過去3年間の収益性推移を分析します。
1.1 主要財務指標の推移
指標 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 |
---|---|---|---|
売上高 | 375.4億ドル | 444.7億ドル | 465.0億ドル |
売上総利益率 | 43.4% | 44.8% | 46.0% |
営業利益率 | 7.7% | 15.5% | 14.6% |
純利益率 | 6.3% | 12.9% | 13.0% |
ROE | 29.7% | 55.0% | 43.0% |
1.2 収益性推移の要因分析
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売上高の成長:
- 2021年度:18.5%増
- 2022年度:4.6%増
- 要因: a) デジタル販売の急成長(特に2021年度) b) 北米市場の強い回復 c) アパレル部門の好調
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売上総利益率の改善:
- 3年間で2.6ポイント上昇
- 要因: a) 直接販売(DTC)チャネルの拡大 b) フルプライス販売の増加 c) 為替影響のプラス効果
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営業利益率の変動:
- 2021年度に大幅改善、2022年度に若干低下
- 要因: a) 2021年度:コスト削減効果、売上高回復 b) 2022年度:マーケティング費用の増加、サプライチェーン混乱の影響
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純利益率の安定:
- 2021年度以降、13%前後で安定
- 要因: a) 効果的な費用管理 b) 税率の安定
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ROEの変動:
- 2021年度に大幅上昇、2022年度に低下
- 要因: a) 2021年度:純利益の大幅増加 b) 2022年度:株主資本の増加による希薄化効果
2. 成長性分析
2.1 売上高の推移
地域 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | CAGR (2020-2022) |
---|---|---|---|---|
北米 | 146.1億ドル | 174.6億ドル | 186.3億ドル | 12.9% |
欧州・中東・アフリカ | 93.5億ドル | 114.3億ドル | 121.5億ドル | 14.0% |
中国 | 63.1億ドル | 81.5億ドル | 73.9億ドル | 8.2% |
アジア太平洋・南米 | 51.6億ドル | 54.0億ドル | 60.3億ドル | 8.1% |
全社合計 | 375.4億ドル | 444.7億ドル | 465.0億ドル | 11.3% |
2.2 成長要因分析
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地域別成長:
- 北米:eコマース成長、実店舗回復
- 欧州:サッカー関連製品好調、デジタル販売拡大
- 中国:2022年度は新型コロナの影響で減速
- アジア太平洋・南米:新興市場での浸透
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チャネル別成長:
- デジタル販売:3年間でCAGR約35%
- 直営店:オムニチャネル戦略の強化
- 卸売:主要小売パートナーとの関係強化
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製品カテゴリー別成長:
- フットウェア:イノベーションによる差別化
- アパレル:アスレジャー需要の取り込み
- 用具:デジタルフィットネス関連製品の拡大
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ブランド別成長:
- Nikeブランド:全カテゴリーで成長
- Jordanブランド:グローバル展開の加速
- Converseブランド:デジタル戦略強化による成長
3. キャッシュフロー分析
3.1 主要キャッシュフロー指標
指標 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 |
---|---|---|---|
営業CF | 26.8億ドル | 75.1億ドル | 50.9億ドル |
投資CF | -13.2億ドル | -9.1億ドル | -22.1億ドル |
財務CF | 1.1億ドル | -24.3億ドル | -56.6億ドル |
フリーCF | 13.6億ドル | 66.0億ドル | 28.8億ドル |
3.2 キャッシュフロー状況の分析
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営業キャッシュフロー:
- 2021年度:純利益の大幅増加、運転資本の改善
- 2022年度:在庫増加による運転資本の悪化
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投資キャッシュフロー:
- 主に設備投資とソフトウェア開発
- 2022年度:短期投資の増加
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財務キャッシュフロー:
- 2021年度以降:自社株買いの再開、配当金支払いの増加
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フリーキャッシュフロー:
- 3年間で堅調に推移
- 投資余力の確保
4. 財務健全性評価
4.1 主要財務比率
指標 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 |
---|---|---|---|
流動比率 | 2.5 | 2.8 | 2.4 |
当座比率 | 1.9 | 2.2 | 1.7 |
自己資本比率 | 31.7% | 39.1% | 42.1% |
D/Eレシオ | 1.16 | 0.81 | 0.69 |
4.2 財務健全性の評価
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流動性:
- 流動比率、当座比率ともに健全な水準
- 短期的な支払能力に問題なし
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自己資本:
- 自己資本比率の継続的な改善
- 財務基盤の強化
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負債状況:
- D/Eレシオの改善傾向
- 負債の適切なコントロール
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信用格付:
- S&P:A+
- Moody's:A1
- 安定した信用力を維持
5. 将来の投資能力
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研究開発投資:
- 売上高の約3%を継続的に投資
- イノベーション能力の維持・強化
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設備投資:
- デジタル化、サプライチェーン最適化への投資継続
- 年間15-20億ドル規模の投資計画
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M&A・戦略的提携:
- 豊富な現金reserves(2022年度末で130億ドル超)
- デジタル、テクノロジー分野での買収機会
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株主還元:
- 配当の安定的成長
- 自社株買いプログラムの継続(2022年度は44億ドル実施)
6. 結論
ナイキの財務状況は全体として堅調であり、以下の特徴が挙げられます:
- 持続的な売上成長:デジタル戦略とグローバル展開による
- 収益性の改善:直接販売の強化とコスト管理の成果
- 強固なキャッシュ創出力:柔軟な投資と株主還元を可能に
- 健全な財務基盤:将来の成長投資を支える
ただし、以下の点に注意が必要です:
- 地域間の成長格差:特に中国市場の変動
- サプライチェーンリスク:在庫管理と原価への影響
- 為替リスク:グローバル事業展開による為替変動の影響
ナイキは、デジタル戦略の更なる強化、新興市場での成長、サステナビリティへの取り組みを通じて、今後も持続的な財務パフォーマンスの向上を目指すと予想されます。