1. 概要

リンデ(Linde plc)は、世界の工業ガス市場においてトップクラスのシェアを持つグローバル企業です。同社は、産業ガス、医療ガス、特殊ガス、およびエンジニアリングソリューションを提供しており、多様な産業セクターにサービスを展開しています。市場分析からは、リンデが安定した成長を続けながら、新たな技術革新と持続可能なソリューションの開発に注力していることが分かります。

2. 市場規模

• 現在の市場規模： 世界の工業ガス市場は2022年時点で約950億ドルと推定されています。

• 過去5年間の推移： 2018年から2022年にかけて、工業ガス市場は年平均成長率（CAGR）約5-6%で成長してきました。この成長は、製造業の拡大、医療分野での需要増加、そして特に新興国市場での工業化の進展によって支えられてきました。COVID-19パンデミックの影響で2020年に一時的な停滞がありましたが、医療用酸素の需要急増により、市場は比較的早く回復しました。

3. 市場成長率

• 現在の成長率： 2023年の工業ガス市場の成長率は約6-7%と推定されています。

• 過去5年間の推移： 2018年から2022年にかけての市場成長率は、年によって変動がありましたが、概ね5-7%の範囲で推移してきました。特に注目すべきは、2020年以降のグリーン水素への注目度の高まりです。これにより、水素関連技術を持つリンデのような企業にとって、新たな成長機会が生まれています。また、半導体産業の急成長に伴い、高純度ガスの需要も増加しており、市場成長を後押ししています。

4. 主要競合他社

1. エア・リキード（Air Liquide）

   • 市場シェア：約20-25%
   • 強み：幅広い地域展開、イノベーション力
   • 弱み：一部地域での市場飽和

2. エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ（Air Products and Chemicals）

   • 市場シェア：約15-20%
   • 強み：エネルギー関連プロジェクトの強さ
   • 弱み：地域的な集中度が高い

3. 昭和電工ガスプロダクツ（旧・日本酸素ホールディングス）

   • 市場シェア：約10%（アジア地域で強い）
   • 強み：日本市場での強固な地位、アジア展開
   • 弱み：グローバル展開においてやや遅れ

4. メサー（Messer Group）

   • 市場シェア：約5-7%
   • 強み：欧州市場での強さ、特殊ガス分野
   • 弱み：北米市場でのプレゼンスが比較的弱い

5. 競合他社とリンデとの比較

リンデは、以下の点で競合他社に対して優位性を持っています：

1. グローバル展開：リンデは、北米、欧州、アジアの主要市場で強力なプレゼンスを持っており、地理的なバランスが取れています。

2. 技術力：特に水素技術とクリーンエネルギーソリューションにおいて、リンデは業界をリードしています。

3. 財務力：2018年の合併以降、リンデは強固な財務基盤を築いており、大規模な投資や研究開発を継続的に行える体制を整えています。

4. 顧客基盤の多様性：リンデは、製造業、医療、食品・飲料、エレクトロニクスなど、幅広い産業に製品を供給しており、特定の業界の景気変動リスクを分散しています。

6. 今後の市場動向予測

• 市場規模の予測： 2028年までに世界の工業ガス市場は約1,300億ドルに達すると予測されています。

• 成長率の予測： 2023年から2028年にかけて、年平均成長率（CAGR）は約6-7%と予想されています。

• 新たな市場参入者や技術革新の可能性：

  1. グリーン水素技術：再生可能エネルギーを用いた水素生産が拡大すると予想され、この分野での新規参入や技術革新が活発化する可能性があります。
  2. カーボンキャプチャー技術：CO2回収・利用・貯留（CCUS）技術の発展により、新たな市場が創出される可能性があります。
  3. 半導体向け超高純度ガス：半導体の微細化に伴い、より高純度のガス需要が増加すると予想されます。

• 規制環境の変化の可能性：

  1. 環境規制の強化：カーボンニュートラル政策の推進により、クリーンエネルギー技術への需要が高まる可能性があります。
  2. 安全基準の厳格化：工業ガスの製造、輸送、使用に関する安全基準がさらに厳しくなる可能性があります。
  3. 医療ガス規制：COVID-19の経験を踏まえ、医療用ガスの供給体制や品質管理に関する規制が強化される可能性があります。

7. 日本市場との関連性

• 日本市場での事業展開： リンデは、2018年の合併以前から日本市場に進出しており、現在も重要な市場として位置付けています。特に、半導体産業向けの高純度ガス供給や、水素エネルギー関連プロジェクトで存在感を示しています。

• 日本の類似企業との比較： 日本の主要な工業ガス企業である昭和電工ガスプロダクツ（旧・日本酸素ホールディングス）と比較すると、リンデはグローバルな事業展開と技術力で優位性を持っています。一方で、日本国内市場における顧客との関係性や日本特有のニーズへの対応では、地場企業の方が強みを持っている場合があります。リンデは、グローバルな知見と技術力を活かしつつ、日本市場の特性に合わせたアプローチを取ることで、競争力を維持・強化しています。